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  第玖話 『理由』  
 

 

「見えてきちゅうよ、左馬介様」

源吉は立ち止まって左馬介の方を振り向き、明るい表情で言った。

「あの山ぜよ」

促されるまま左馬介は右手をかざし、源吉の指差す方に目をやった。

初めて見るその山に、彼は何故か故郷に似た懐かしさを感じた。

おそらく彼の中の『鬼の力』がそうさせているのだろう。


龍と鬼の一族との間に何らかの関係があるらしい事は、左馬介も早くから気付いていた。

篭手にはめ込む玉を『龍玉』と呼び、また大和国の柳生という所にも竜神の名が付いた

鬼の一族に関係する場所があるという。

そして今彼が向かっている、鬼の篭手を封印する場所もまた『龍』の名を持つ洞窟だった。

 −あの山に、俺の長かった戦いの旅の終わりがある訳か・・・−



坂本城を脱出し、二日前に無事土佐国に入った左馬介とかえでは、

その日の内に、岡豊(おこう)城で長宗我部元親と対面した。

元親はこの地を支配する戦国大名で、明智家家臣の斎藤家を通じて縁があり、

また信長軍が元親の四国統一を妨害せんとこの地に攻め込もうとしていた矢先に

明智軍が本能寺で信長を討った為、危うく難を逃れたという経緯もあり

明智家には好意的だった。

元親は左馬介から手渡された熙子からの書状に目を通すと、快く左馬介たちを受け入れた。

そして彼は左馬介から『龍』の名がつく洞窟について尋ねられると、

それは『龍河洞』の事だな、とすぐさまそばにいた家臣の一人に、

そこまでの道案内を左馬介たちに付けてやるよう命じた。


その案内役というのが、今左馬介の前を歩いている初老の猟師だった。

彼はこの付近に猟場を持つ猟師たちの頭領で、人の通る道から果ては獣道まで、

全ての山の道という道を熟知していた。

源吉は話し好きなのか、道中あの山ではどんな獣が獲れるだとか、そこの村は

所帯がいくつあってどんな作物を作っているなどと、しばしば立ち止まっては

左馬介に説明していた。

自分にとってはどうでもいいその話に適当に相槌を打っていた左馬介であるが、

実は彼がその山や村に視線を移している間、源吉が自分の右腕をじっと見ている事に

彼は気づいていた。

源吉は、後ろを歩く寡黙な若侍が右腕にはめている奇妙な篭手の事が気になって

仕方がないのだった。

しかし相手が武士の身分であるのと、篭手のあまりの異様さ故に、見せて欲しいと言うのが

はばかられるのだった。それで源吉は、左馬介に気付かれない様にして彼の視線を他所に

促しては篭手を観察するという事を繰り返していたのだが、むしろ気付いていないのは

源吉だけであった。

左馬介の後ろを歩くかえでは、源吉がその奇妙な動きをする度に笑みを浮かべている。

大きく顔にこそ出していないが左馬介も源吉の事が可笑しいらしく、口の端が歪んでいた。

しかし彼は源吉に悪意がないのが分かっていたので、あえて気付かないふりを

し続けていたのだった。


やがて左馬介が手を下ろして正面を向くと、源吉も向けていた視線を瞬時に戻した。

そして、何事もなかったかの様に、

「あしは慣れちゅうから平気やかけど、お二人ともこの暑い中、山道を歩き通しでおだれに

かぁーらん。何やったら、はやちっくとゆっくり歩きましょうか」

と、土佐なまりの強い喋り方で二人に声を掛けた。

「・・・かえで、疲れていないか?」

振り向いて左馬介は尋ねた。

「いいえ、大丈夫。まだまだ若い人には負けないわよっ」

かえでが珍しく軽口を言った。『若い人』とは勿論、左馬介の事である。

意外な彼女の言葉に少々驚いた左馬介だったが、

「そうか。」

とすぐに彼は笑みを返した。

「左馬介こそ大丈夫?」

彼の笑みに対してかえでも気遣いを見せる。

「ああ、大丈夫だ。」

と左馬介は彼女の目を見つめてその気遣いに応えた。

 

「はぁ、それにしても暑いわね」

と、かえでは汗で額に貼り付いた前髪を細い指でそっと脇へ寄せ始めた。

左馬介は何か心に満たされるものを感じながら、そんなかえでの姿を暫く見つめていた。

ふと、彼女の手首のあたりが陽の光で何度も赤く輝くのが目に留まった。

 

琵琶湖を進む小舟の上で、阿児との出会いについて話し終えたかえでは、

櫓(ろ)から手を離すと阿児から貰ったという腕輪を左馬介に見せた。

それは紛れもなく、あのミシェルがしていた物と同じ『吸魂のブレスレット』だった。

確かに阿児が言った通り、これには鬼の篭手と同様、老化を止める力があるようで、

かえでは五年前の美しさのまま、いやむしろ若くなっている様にさえ見えた。

しかし左馬介の心はその事よりも、もっと重大な事で占められていた。

左馬介はおもむろに手を胸元に当てた。

かえでの髪留めは確かに彼の懐にあった。

 −そういうことなのか、阿児・・・−

阿児が、かえでと別れた後どうしたのか、かえでは勿論、左馬介も知る由もない。

しかしパリでの経験で時の流れの観念を新たにした彼には、おおよその察しがついた。

 ―どうやったのか分からんが、あのとき身を挺して俺の命を救ってくれたのは、かえでの

  姿をした阿児に違いない・・・。恐らく、俺が屋敷で眠っている間にこの髪留めから

  かえでの事を知ったのだろう。これが俺から離れたところに落ちていたのは、きっと

  その所為だ・・・。

  だが、阿児は何故俺たちの為にそこまでするのだ?それに・・・

  何故篭手の封印の場所を知っていながら俺に話さなかったのだ?−

左馬介の表情は苦悩のそれへと変わった。

「どうしたの、左馬介。苦しいの?」

かえでが左馬介の顔を覗き込むようにして言った。

だが左馬介は、かえでに心の内を言えなかった。

確証がある訳ではないし、それに言えばきっと彼女は苦しむに違いない。

左馬介は懐から手を離し、

「いや・・・何でもない。ただ、阿児が何処に行ってしまったのか気掛かりでな・・・」

と、かえでとは目を合わさずに、そのまま坂本城の方に視線を向けた。

城はもう随分小さくなっていた。

「カラス天狗の仲間の所にでも帰ったんじゃないかしら。彼女の事だから、きっと元気に

しているわよ。でも、左馬介にお別れぐらい言えばいいのに・・・」

そう言うと、かえでも左馬介と同じように城の方を見た。

 −いや、言ったかもしれない・・・あの時、俺の腕の中で・・・−


左馬介は心の中で呟くと、かえでに気付かれないように髪留めをそっと湖に落とした。

それが小さく揺れながら沈んでゆくのを見つめながら、彼は喉の奥が押し上げられる様な

感覚を覚えていた。

 


 
     
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