タイトル
  鬼武者鬼武者 小説  
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  話 『決心』  
 

安土城での戦いに辛うじて勝利した左馬介たちは、秀吉軍に山崎で大敗を喫し、

窮地に陥っている光秀を救援すべく、一路勝龍寺城へと向かっていた。

軍は定頼と左馬介を先頭に、琵琶湖の東岸と並行するように走る道を、湖を右にして進んでいた。

幻魔によって一年中雪と氷に覆われていたその湖も、

信長が討たれた事でその日の内に本来の美しい姿を取り戻した。

以前のように空気はどこまでも澄み渡り、

水平線の彼方には深緑の山並が切れ間なく左右に広がっていた。

だが、その景観に目を向けようとする者は、軍の中にはただの一人もいなかった。

昨夜の激戦の疲れと行く先に待っている勝算の薄い戦いに、

兵たちの士気が落ちていたからだ。

彼らは皆頭を垂れあるいは天を仰ぎながら、重い足を引き摺るようにして歩いていた。その上、

軍は負傷者を多数抱えていた為、遅々として進まず、その事で定頼は焦りを一層募らせていた。



やがて湖の南端にある瀬田の唐橋が見える辺りに差し掛かった時だった。

前方から一騎、こちらに向かって駆けて来る者が見えた。

「水色桔梗(ききょう)の旗指物・・・勝龍寺からの使いか?!」

「そのようですな」

左馬介は馬上で左手を挙げ、後続に停止の合図を出した。

直後、使いの兵士は左馬介たちの遥か前方で倒れるように馬から落ちた。

「!・・・左馬介っ」

「はっ」

左馬介が急いで駆け寄ってみると、その兵士は血と汗にまみれて満身創痍の状態だった。

左馬介は鞍を降り、兵士を抱え起こした。

阿児が傍らで心配そうに覗き込んでいる。

「死んじゃったのかな・・・」

「いや、まだ息がある。おい大丈夫か、しっかりしろ。おい!」

左馬介の呼び掛けに意識を取り戻した兵は、虚ろな目で左馬介を見ると、

途切れそうな細い声で衝撃的な内容を口にした。

「う・・・上様昨晩、・・・夜陰に紛れ坂本城にお逃げになる途中、・・・小栗栖の森で土民の

 襲撃により深手を負われ・・・、もはやこれまでとその場で・・・じ、自害されました・・・」

「えぇっ」

「何だとっ!」

左馬介が顔を上げ定頼の方を振り向くと、その様子を見て事を悟ったのか、

彼は無念の表情を浮かべた。

しかし、そうとなれば尚のこと悲しむ暇はない。

・・・坂本城が危ない!

定頼は、軍には光秀の死を伏せたまま、行き先を坂本城へと変更した。

ところが、瀬田の唐橋を越えて湖の西岸を通る道を北上する途中、

大津の手前辺りで運悪く羽柴側の堀秀政の軍と遭遇してしまった。

彼らは今まさに坂本城の攻撃に向かうところだったのだ。

濃紺の甲冑で統一された明智兵の中で、ただ一人紅の具足を身につけている左馬介の姿は

否が応にも目立った。彼の存在はすぐに堀勢の知るところとなり、「あれが信長様を討った男ぞ」

と左馬介の首を狙って怒涛の如く攻め寄せてきた。

たちまち戦闘が開始される。

標的とされた左馬介自身も、他の兵たちと共に第一線に立ち奮戦した。

しかし、定頼の軍は安土城で大勢の兵を消耗していた為、数の上で圧倒的に不利だった。

そして左馬介も今は鬼の力を持つ者ではなく、ただの一武将としてしか戦えなかった。

何故なら堀側の兵は皆、生身の人間だったからだ。

人間に鬼の力は効果がない。

それは、左馬介が五百年後のパリに飛ばされる直前の、本能寺での森蘭丸との戦いでも明らかだ。

もっとも仮に効果があったとしても、左馬介にとっては人間に対し鬼の力を使う事は卑怯な方法

であり、彼の誇りがそれ許さなかった。

その為、阿児は自分が何も役に立てないまま味方の兵が次々と倒れてゆくのを見て歯痒い思いを

していた。

戦いの最中、後方で軍を指揮していた定頼は左馬介を呼び寄せると、こう告げた。

「この軍勢に坂本城を攻められれば、城に残した兵の数では到底防ぎきれまい・・・。

我々がここで敵を食い止めている間、お前は先に坂本城に戻り母上を守ってやってくれ」

意外な定頼の言葉に左馬介は思わず声を荒げた。

「皆決死の覚悟で戦っている中を、どうして私だけが逃げられるというのですか!?」

だが、定頼は首を左右に振り、続けた。

「逃げるのではない。母上を頼むと言っているのだ。それに、お前には“お前にしかできない”

 大事な役目がある。今ここで命を落すような事があってはならぬのだ。そうであろう」

「くっ・・・」

そう、自分には篭手の封印という使命がある。

それにともかく、熙子の身の安全は確保しなければならない・・・。

左馬介は定頼の言葉に従うしかなかった。

「・・・承知致しました。では坂本城でお待ちしております」

「頼んだぞ、左馬介」

定頼は安堵の表情を見せると、左馬介と入れ替わるように雄叫びを上げながら修羅場へと

突き進んでいった。

左馬介は定頼の姿が土煙の中に消えるのを見届けると、後方で待つ大鹿毛を指笛で呼び寄せた。

だが坂本城に向かうと言っても、陸路は堀の軍勢が既に押さえており通る事ができなかった。

「どうするの・・・?」

阿児の不安そうな声に、左馬介は戻って来た大鹿毛に跨り答えた。

「大丈夫だ、任せておけ。ハッ!」

左馬介は大鹿毛の腹を蹴ると、何故か湖の方角へと向かった。

そしてあろうことか、そのまま打出の浜から水中へと馬を乗り入れたのだ。

「え、ええ!?ちょっと左馬介!!?」

「心配ない。浅瀬の浅深は熟知している」

阿児の不安をよそに、大鹿毛は不思議な程軽快に湖の中を走り続けた。

目指すは坂本城前、唐崎の浜。

その様子は堀勢の兵の目にも入っていたが、

「湖に飛び込むとは、あやつは気が変になったのか!そのうち溺れ死ぬぞ」

と、彼を取り逃がした事を惜しみながらも、誰もその後を追おうはしなかった。

当然である。追って自分も溺れるより、目の前の敵兵を斬る方が生き残る率は高いのだ。

 

しかし左馬介たちは彼らの予想に反し、難なく唐崎の浜へと辿り着いた。

「凄いよ、左馬介!」

彼の見事な手綱さばきに、阿児は思わず声を上げた。

だが、彼の表情は依然として厳しいままだった。


間もなく坂本の町に到着した左馬介は、外堀に架かる三の丸南門へと続く橋のたもとで

鞍を降りると、阿児に言った。

「阿児、馬は操れるな?」

「うん」

「俺は伯母上を探し出し天守にお連れする。お前はこいつに乗って、町の者たちに避難

 するよう知らせて回ってくれ。堀の軍勢が攻めて来る、とな。それが済んだら、お前も天守

 まで来るんだ。いいな?」

「うん、分かった!」

阿児は人の姿へ変わると、大鹿毛に跨り町の中へと向かった。

それと同時に、左馬介も本丸を目指し走り出した。


阿児の知らせで城下は、たちまち大騒ぎになった。

ある者は慌てて城の中に逃げ込み、またある者は家財を大八車に乗せて町の外へ出て行った。

中には舟で湖に避難する者もいた。

阿児は町中の者に一通り声をかけ終わると、先程左馬介と別れた橋のたもとに戻り馬を下りた。

が、彼女は橋を渡らず、その向かい側にある十王堂と書かれた鳥居がある社の中へ大鹿毛を

連れて入っていった。

境内は広葉樹が堂を取り囲むように生い茂り、初夏の日差しを木漏れ日に和らげていた。

「お前のお陰で、敵が来る前に町の全員に伝える事ができたよ」

阿児は労をねぎらうように大鹿毛のたてがみを何度も撫でた。

だが、やがて彼女は表情を曇らせるとその手を止め、おもむろに語り始めた。

 

「あのさ・・・あたい、あんたの主人に黙っていた事があるんだ・・・

 篭手の封印の場所、実はあたい知ってんだ。

 本当は信長を倒した後、左馬介をそこへ連れて行かないといけなかったんだよ。

 でも言いたくなかった・・・

 だって、内緒にしていれば手掛かりを探しながらまた旅を続けられるだろ。

 そうすれば、その分たくさん左馬介と一緒にいられる。

 でも、また幻魔が安土に現れただろ。

だから、もうそんなのんきな事言ってる場合じゃないのは分かってたんだけど、

あんなに真剣に悩んでいる左馬介を見てたらつい言い出せなくなって・・・。

そんな大事な事を何で黙ってたんだって怒られそうで・・・

 そしたらあたい、左馬介に嫌われちゃうだろ?

 でもそうしてるうちに、とうとう明智家がこんな事になってしまって・・・

 もう普通に旅をする事もできなくなっちゃったよ・・・」 

そう言うと、阿児は堂に手綱を繋ぎ始めた。

大鹿毛が不思議そうな目でその彼女の手元と表情を交互に見ている。

「だから今度こそ左馬介にちゃんと教えなくちゃ・・・

 大鹿毛・・・お前ともここでお別れだ。誰かいい人に拾ってもらうんだよ」

さよなら、ともう一度たてがみを撫でると、阿児は社の入り口へと歩き出した。

大鹿毛は自分の許を去ろうとしている小さな背中にいなないてみたが、

彼女にはもう何も聞こえていないようだった。

 

阿児が鳥居をくぐって外に出ると、ちょうど正面の南門越しに天守が見えた。

彼女は立ち止まると、左馬介が待つその場所を見つめ続けた。

 

阿児は今、彼女と左馬介、二人の未来を大きく変えるある事を実行しようとしていた。

それは湖に背を向けて泣いたあの時、あの屋根の上で心に決めた事だった。

それをする事できっと左馬介は幸せになり、

そして自分の事をずっと想ってくれるようになる・・・

 

「待っててね、左馬介・・・」

阿児は瞳を深く閉じると、精神を集中した。

誰もいなくなった町の片隅に現れたその光は、どこか寂しい色をしていた・・・

 

 

 

阿児と別れた左馬介は、彼女を見送る事もなく熙子を見つけ出す為本丸へと急いだ。

左馬介はその南門に続く橋の上を駆けながら、堀勢の来襲の知らせが既に城に届いている事を

知った。何故なら、門は半開きになっていたからだ。つまり定頼たちの帰りを待ちながら、

敵がやって来た際には何時でも閉じられるようにしているのだ。

ということは、熙子はもう天守に移っている筈だ。

左馬介は門兵から馬を借りると、道すがら混乱する城兵たちに指示を出しながら天守を目指した。


やがて天守に到着した左馬介が最上階に駆け上がると、そこには白装束姿で静かに座る熙子が

いた。彼女が城を枕に死ぬ覚悟だと悟った左馬介は、自分が敵を食い止めている間に城を落ちる

よう説得を始めた。

しかし、その返事は意外なものであった。

「もうよいのです左馬介。殿や主だった重臣たちも既になく、この城とてもはや風前の灯。

 私は殿の妻として明智家の最後を見届け、そして殿の後を追います。

 ですが左馬介、あなたはここを逃れなさい。

 そして長宗我部元親殿を頼って土佐の国へ向かうのです」

「・・・土佐へ?」

問い返す左馬介。

その時であった。


“鬼の篭手を封印する場所がそこにあるのよ”


左馬介は覚えのある背後からのその声に耳を疑い、

そこにあった山吹色の忍装束の女の姿に自身の目を疑った。


 
     
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