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  第伍話 『血戦』  
 


夜。明智軍の陣屋には異様な静けさが漂い、

篝火の乾いた音以外に今はしわぶきひとつ聞こえなかった。

陣幕の内側では光秀と彼の息子定頼そして左馬介の三人が、安土城とその周辺の地形を描いた

絵図を囲んでそれぞれ思案を巡らせていた。

そこへ絵図が照り返す篝火の光に誘われたのか、一匹の蛾がどこからともなく舞い込んできた。

蛾は鱗粉を撒き散らしながら光秀と絵図の間を飛び回った。

「ええい、うっとおしい!」

光秀は、腹立たしげに手の甲でそれを払った。

だが彼のその苛立ちは、目の前の蛾の所為だけではなかった。

あらゆる兵法に精通し智将と呼ばれる光秀も、幻魔の想定外の行動に今回は攻めあぐねていた。

本能寺での勝利は、左馬介とジャックの功績を除けば圧倒的な兵の数と地の利が功を奏した

形だが、今回は立場が全く逆だった。

このままでは埒が明かないばかりか、いたずらに兵を消耗する一方だ。

兵の士気も落ち始めている。

 

三人はこれといった妙案も出ないまま、こうしてもう四半刻も押し黙ったままだった。

先刻から左馬介の右肩に乗っていた阿児はその雰囲気に耐えられなくなったのか、

三人から少し離れた場所に陣椅子が置いてあるのを見つけると、そこへ向かって飛び上がった。

そして彼女には大き過ぎるその椅子に阿児は腰を下ろし、そこから三人の表情を確かめると

溜息をひとつ吐き、退屈そうに両足を揺らし始めた。

 

そこへ突然、光秀が放っていた間者から予想もしなかった報せがもたらされた。


「何、筑前殿が我が軍を攻めにこちらに向かっていると?!」

光秀は驚きを隠せなかった。

「されど父上、羽柴軍は確か備中の高松城を攻略中で今は動けないはず・・・」

その声を打ち消すように間者は言う。

「いえ、城方とは和議をしたそうにございます。

 その一方で羽柴軍は敵に知られぬよう順次兵を撤退させ、先日その第一陣が姫路城に

到着しております」

間者は跪いたまま答えた。

「秀吉は幻魔を従軍させているのか」

左馬介は最も懸念している事を尋ねた。

「いえ、正規軍のみで幻魔は含まれておりません」

「おのれ、時間稼ぎか!!」

光秀は安土城を睨んだ。

おそらく安土勢は明智軍の主力をここで釘付けにしておき、羽柴軍が到着したところで

城からも攻撃を仕掛けて挟み撃ちにするつもりなのだろう。

そして秀吉は幻魔王信長を討った明智家を滅ぼし、次は己が天下に号令せんとしているのだ。

 

翌日、光秀は安土城を定頼と左馬介に任せ、自身は羽柴軍を迎え撃つべく、

将兵の半数近くを引き連れて、一旦坂本城へと帰って行った。

 

兵の数が減り、城攻めが更に困難になった為、それから五日が経っても

明智軍はまだ天守に攻め入ることが出来ず、戦況は膠着状態となった。

その日の夕刻、光秀に代わって軍を指揮する定頼のもとに早馬が到着した。

それは最悪の一報であった。

光秀の軍が山崎での戦いで倍の兵力を持つ羽柴軍を前に総崩れとなり、

前線基地である勝龍寺城に退却したというのだ。

一刻も早く応援に向かわねば、光秀の身が危ない。

かといって今このまま安土を去る事は出来ない。

幻魔は一匹たりとも生かしておいてはならないのだ。

左馬介は、速やかにこの戦いを終わらせて光秀の援護に向かうよう定頼に進言した。

もはや決死の強行突破しか策は残されていない。

定頼は直ちに全軍に総攻撃を命じ、自らも馬に跨り突撃した。

「阿児・・。黒羽織だ」

左馬介は死地へと走り行く兵を見つめながら、阿児へと伝えた。

「え!?でも・・・」

「この戦いで一気に決めるしかない!」

「う・・・」

カラス天狗の一族は霊魂を宿らせた特殊な羽織を身につける事によって、隠された能力を

発揮することが出来る。

羽織はその色により引き出される能力が違っており、左馬介が指示したそれは、鬼の力を

持つ者の筋力を飛躍的に向上させ、殆どの幻魔を一撃で屠る事が出来るのだが、

その代償として一太刀ごとに生命力を大きく消耗してしまう。

阿児は迷った。

消耗した生命力は篭手に幻魔の魂を吸収すれば回復出来る。

だが、万が一極限まで体力を消耗した際に一太刀でも浴びれば、その命は消え去るからだ。

正にそれは命懸けの荒業だった。

「急ぐんだ、阿児。他に術はない。叔父上が討たれてからでは遅いんだ。」

「う・・・ん・・・分かった・・・」

阿児は渋々ながら羽織に腕を通した。

すると、左馬介の身体の奥底から溢れんばかりの力が湧き出した。

そして同時に神経が研ぎ澄まされたことで、幻魔たちの動きが彼の目には緩慢に映った。

―いけるぞ!!−

左馬介は馬から飛び降りると、怒号を上げて幻魔の大軍の中へと猛進した。

彼が一つ雄叫びを上げると、同時に彼の周囲にいる幻魔が抗う間もなく次々と肉塊と化し

消えていく。

その姿は『一騎当千』の言葉を体現するかの如く。

真上から見れば、左馬介が幻魔の海原を切り裂いていく様にすら見えたであろう。

羽織の効果で精神が昂ぶっている左馬介は、あまりに鮮やかに決まる攻撃に快感すら

覚えていたが、阿児はそれとは逆にハラハラしながら傍らでその様子を見守っていたのだった。

何百もの幻魔を倒しながら前進し、遂に左馬介は天守に侵入することに成功した。

しかし意外な事に、そこには幻魔の姿は全くなかった。

不思議に思いながら中を進んでいくと、ふいに視界が広がった。広間に出たようだ。

位置的にはちょうど天守の中央辺りで、部屋は吹き抜けになっていた。

奥には上の階へ上がる為の昇降機が見えた。

左馬介がそれに足をかけようとしたその時、



「久し振りだな、左馬介・・・」

聞き覚えのある男の声が背後から聞こえた。二度と聞く事のないはずだった声が。

「・・・やはりこれはお前の仕業か!」

そう言うと左馬介は声がした広間の入り口の方に向き直った。

左馬介の宿敵の一人にして、幻魔界最高の闘士 ガルガント。

ジャックがこの時代に来た事で時の流れが変わってしまった今、

一度は倒したこの男とこうして再び相見える事は、必然だった。

「ここを囮にして秀吉と共に明智軍を全滅させるもりだったのだろうが、あいにくだったな」

「囮というのは正しくないな。

私は秀吉だろうが光秀だろうが、誰が勝って天下を取ろうと人間ごときのする事に興味はない。

奴とは利害が一致しただけの事。

私は貴様をここにおびき寄せ、相対することさえ出来ればそれでよかった」

そう言うと、ガルガントは左馬介の方に歩み寄った。

「・・・・?」

不意にガルガントは立ち止まり、訝るような表情をした。

彼は左馬介に、以前とは違う何かを直感したのだった。

「貴様・・・本当に左馬介か?」

「・・・外の幻魔は地下の巨大幻魔が生み出している。そうだな?」

「ふん、私の問いに問いで返すか。まぁいい。察しの通りだ」

「ならば、中枢はどこだ」

左馬介は五百年後のパリに飛ばされる前、多足幻魔戦車の艦橋でガルガントと対峙した時に

破壊した中枢がこの巨大幻魔にもある筈だと睨んでいた。

それを壊せば、機能を停止させ本体を倒す事が出来るに違いない。

「ちょ、ちょっと左馬介・・・」

左馬介が横目で阿児を見ると、随分と苦い顔をしていた。流石に質問が単刀直入すぎる。

視線をガルガントに戻すと、彼もまた同じ様に苦笑を浮かべていた。

「まったく、貴様という奴は・・・ふん、そこまで素直に訊かれたならば答えてやらなくもない・・・」

但し、と言いつつ彼はおもむろに両の掌を合わせ、その間に隙間を作った。

「この私を倒す事ができたらなぁあ!」

叫ぶや否や、彼の掌の間にかえしのついた大振りの刀が現れた。

「ここで決着をつけようという訳か・・・。

 悪いが一瞬で終わらせてもらうぞ!」

直後、左馬介が天をも突き破らんばかりの雄叫びを上げながら身体を仰け反らせる。

「!!!??」

衝撃と共に左馬介の周囲の空間が捻じ曲がっていく。

そして閃光。

ガルガントは驚きの声を上げる間すら与えられなかった。

気づいた時、ガルガントの頭上高くには白い髪を振り乱し鬼斬り左文字を大上段に掲げる

男の姿があった。

しかし、それは彼が知っているあの鬼武者ではなかった。

ガルガントは見上げながら、ただ思った。

―これが、鬼神というやつか・・・−

だがそれは鬼神ではなかった。

しかし限りなく鬼神に近かった。

『真鬼武者』

それがその男の今の名であった。


予告通りの一瞬の決着。

ガルガントは仰向けに倒れたまま、約束通り左馬介に幻魔の中枢の場所を教えた。

そして、その顔に左馬介と戦えたことへの喜びを浮かべ、眠るように息を引き取った。

もうガルガントは指一本動かす事はなく、その肉体から魂が溢れ出していた。

左馬介は闘士の最後を看取ると元の姿に戻り昇降機へと歩を進めた。

中へ入り、壁から突き出た赤い棒を下へ動かすと、昇降機が下の階へと移動を始めた。

到着した場所は、やはりあのとき乗り込んだ幻魔戦車の風景と同じだった。

天井の中央から、一抱えほどの太さのある導管が下に向かって伸びている。

なら、自ずと次の行動も分かるというものだ。

左馬介は助走をつけて飛び上がると、その導管に横一文字に切りつけた。

真っ二つにされた導管は緑色の液体を吐き出しながら、まるで大蛇の様に船橋をのたうち回った。

左馬介は再び昇降機に飛び乗り、今度は赤い棒を上へ動かした。

元の階で昇降機を降り広間を出たと同時に、左馬介たちの背後で爆音が鳴り響いた。

彼の思惑どおり、構造が同じなら弱点も同じだった様だ。

「やったね、左馬介!」

「喜んでいる場合じゃないぞ、阿児。」

左馬介たちは天守の出口へと急いだ。

二人が外に飛び出すと、轟音と共に地面が揺れ始めた。

「な、な、何!?」

阿児が驚きながら辺りを見回す。

「・・・うしろだ」

「え?・・・うわぁ!!?」

目の前に広がっている光景に、阿児は目を疑いたくなった。

大地が顔をもたげようとしている。

いや・・・地下の巨大幻魔が地面から顔を出して今にも飛び上がろうといるのだ。

「ど、どうするの!?こんな大きいの、どうしようも・・・」

「こうするだけだ」

左馬介が抜いていた刀の柄(つか)を両の手で握り直した瞬間、

それは激しい熱を帯びた大振りの両刃の剣へと姿を変えた。

渾身の力を込め、その剣を振り下ろす。

轟炎が巨大幻魔を包み込む。

 


『戦術殻 炎』

 

断末魔が十里に響かん勢いで、左馬介の鼓膜を貫いた。

その絶叫が消える頃、目前の絶望は天守もろとも灰塵と化していた。

戦いを終え、本丸の外へ。

辺りはすっかり闇に包まれていた。

「ご苦労だったな、左馬介」

本陣に戻った左馬介に、定頼は労いの言葉をかけた。

「何とか幻魔は片付ける事が出来たものの、我が軍は見てのとおりこの有様だ」

左馬介が陣を見渡してみると、生き残った兵は元の半分程しかおらず、

更にその半分が負傷していた。

「これでは我らが駆けつけたところで、羽柴軍に勝てる見込みは万に一つもないのう。

 いよいよ秀吉の天下か・・・」

「戦の勝ち負けは武門の常。我らには運がなかったという事でございましょう。

 幻魔ではなく人が天下を治めるのであれば、それも良しと致しませねば。

 それよりも、今は先ずお父上をお救いする事が肝要にございます」

「そうだな。父上が生きておれば、また再起を計る事もできるというものだな・・・」

定頼は半ば己を励ますように言うと、彼は静かに星空を仰いだ。

翌早朝、左馬介と阿児そして定頼は残りの兵を率い、光秀を救援すべく勝龍寺城へと向かった。


 
     
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